「かに革命2022」〜大そうめん流し〜レビュー
9月24日(土)MEDIA CAFE 無事終了しました。ご参加いただいたみなさんありがとうございました。「かに革命」のレビューを中野先生に執筆いただきました。ぜひ読んでください!
「かに革命2022/大そうめん流し」―アートか革命か悪ふざけか?ー
先日9月24日に、山口市下市にあるLife and Eat ClubのMEDICAFE2022の一環として「かに革命2022/大そうめん流し」と名打たれたアート・イヴェントが美術家の中崎透氏の企画で行われた。「ナデガタ・インスタント・パーティー」でアートコレクティブとして活動している中崎氏だが近年ではソロワークでの活躍も顕著である。昨年は宇部市のときわ遊園地で行われた「TOKIWAファンタジア2021」でも夜間のイルミネーションをメインにしたアートイベントで多数のコミカルな作品を展示して、多くの子どもたちのファンを増やしたのではないかと思う。
さて、彼の今回の「かに革命2022」についてである。そもそもこの「かに革命」というイベント/作品については、山口市を拠点にしている山口現代芸術研究所(YICA)[現代アートの分野で活動しており、国際的な内容を地域の文化活動に取り込んで20年以上経つ研究所。近年はNPO法人から一般法人として活動している。]で、2005年のアーティスト・イン・レジデンスのアーティストとして彼を招聘した時に始まったプロジェクトである。
その頃YICAの事務局は山口市の瑠璃光寺の裏手の木町地区の古民家を使った「木町ハウス」というところ行われていた。彼はその時、大学の博士課程を終わったところで「看板屋・中崎」という触れ込みで現れた。ライトボックスを使ったあたかも飲屋街で使われそうな文字フォントを駆使した看板作品を作っていた。その時、てっきりそのような看板を木町ハウスで作ってくれるのかと思いきや、然にあらず。滞在の途中、気がつくと「かに」の「革命」をやるから来てね〜というお誘いを受けた。指定の時間に木町ハウスに行ってみると、ハウスの裏手で行うという。木町ハウスのある木町は古い家並みが続く地区で、鬱蒼とした木々や竹、朽ちそうな建物があり、その頃の木町は昭和の風情を醸し出す家々が残っていた。ハウスの奥は山口市でも有名な一ノ坂川につながる浅い川があり、そこでこのイベントが行われた。二、三畳の川床をその川に一時的に作り、その場所でパーティーを行うというものだった。
清流と言えるその川にはサワガニが結構いるのだが、あえてその場所まで行かないと、普段は目にもしない場所である。川床をアートとして設置することで、普段あまり行かない場所での環境の豊かさに気づき、自然の恵みを感じる企画でもあった。
その後、「かに革命」は山口市前町の前町アートセンター(MAC)や椹野川の河川敷のバーベキュー大会の時など、数年ごとに彼が山口に来るたびに行われた。
上述のような流れがあり、Life and Eat Clubの津田さんから中崎氏の「かに革命」を今回もやるということだったので、期待して指定の時間に行ってみた。Life and Eat Clubの前にも小川が通っているので、今回も川床を作るのだと思っていたが、行ってみたら今回は革命の旗を作ってそうめん流しをするという企画だった。現地ではボランティアスタッフや親子の参加者、Life and Eat Clubの関係者ら多数がいた。建物の入口のブルーシートの上に旗になる布がたくさん置かれ、子どもたちが、墨やアクリル絵の具でカニの絵を描いていた。中崎風のキャラクターのカニや子供達ののびのびとしたカラフルなカニ、保護者のお母さんたちのカニ、みんなめいめいバラバラのカニを描いていた。僕もカニを描いて欲しいということで何十年かぶりにカニを描いた。結構適当に描いたが、「ヤバイ、カニってかなり自由に描いてもカニらしさは、ブレない、、、、」なんて思った。そうこうするうちに、建物の中で、そうめん流しの準備をするという流れになり、中崎氏のアイデアで雨樋と机やイーゼルを使い、青竹を使わない簡易そうめん流し装置の全貌が見えて来た。実験として水を流してみたら一箇所ちょっと水が溢れた場所があったが、概ね大丈夫(NHK Eテレのピタゴラスイッチの要領である)。水が流れるということはそうめんも大丈夫だろうという感じに仕上がった。最後にみんなで描いた「カニ革命」の旗をそうめん流しの装置の各所に飾り付けたが、なかなかの出来だった。(この「カニ革命」の旗は後日エプロンになって参加者に配られた。)
昼の部が終わり、夜の部になってこの装置に、実際にそうめんが流され、様々な薬味を入れた汁でいただいた。どうなることかと思ったが意外と美味しくて楽しい。マスタードシードの薬味なんかもあったりしてとても美味しくいただけた。
ちょっと待って。ここでこのリポートは終わってもいいとは思うが、何かざわざわする。うまく行き過ぎているのである。もしかしてこれでいいのかもしれないが、なんか物足りないかも。
後日考えてみる。もしかして世界的に長引くコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、地球温暖化問題、このご時世、世界的に革命の文字は物騒であり、カニと革命の取り合わせはのんびりとした“悪ふざけ”とも言える。しかし「革命」をキーワードに改めてネット検索すると、人類の歴史における○○革命は数知れず。もしかしてどこかに「カニ革命」なるものもあるかも、、と少し穿って考えてみたくなる。昨今のAIの発達、ネット上の偽情報の氾濫、捏造されたプロパガンダ写真などファクトチェックが不可欠な日常になる毎に、自明だと思われたフィクションとしての「カニ革命」も10年以上の歳月を経てあらぬ意味合いを帯びていることに気づいた。
美術家 N3ART Lab代表 山口大学教授
中野良寿
2022年10月31日